こんにちは。税理士法人武内総合会計です。

今回は令和5年度の税制改正で要件緩和されたストックオプションの税務上の取扱いについてお話ししようと思います。

なお、本記事については、令和5年5月30日に国税庁より公表されました「ストックオプションに対する課税(Q&A)(情報)」を基に作成しております。

ストックオプションとは

ストックオプションとは、会社が自社または子会社の従業員、役員等に対して付与する自社株式を一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で購入することができる権利をいい、一般的には会社法上の新株予約権のうち、付与の対象となる相手方が役職員に対するものを指します。

ストックオプションの意義としては、役職員に対してインセンティブを与える役割があります。すなわち、役職員の努力に応じて、企業価値、株価が上昇すれば、「(一株当たりの株価と権利行使価額との差額)×株式数」の経済的利益を役職員が得られることとなり、役職員が企業価値を高める行動をとりやすくなる施策として利用されています。

 

前提・本記事の構成

ストックオプションの税務上の取扱いについては、その付与時、行使時、また、行使して取得した株式の譲渡時に分けて、課税関係を見ていきます。

ストックオプションは特定の役職員に付与され、その譲渡を自由にされるとインセンティブの効力がなくなるため、一般的に譲渡制限が付されていますが、ここでもそれを前提としています。

また、ストックオプションについては、税制非適格、税制適格という分類もあります。

これはストックオプションの行使時に給与課税される額を株式の譲渡時まで繰り延べることができるか否かを指しますが、最初に税制非適格の税務上の取扱いを説明し、最後に簡単に税制適格の要件をご説明いたします。

さらに、税制非適格についてはストックオプションを無償で付与するか、有償で付与するか、信託を通じて付与するか(信託型)によって取り扱いが異なりますので、その取扱いごとに説明します。

 

税制非適格・無償付与の場合

ストックオプションを無償で役職員に付与した場合の取扱いです。

まず、付与時はストックオプションそれ自体を譲渡して所得を実現させることができないため、所得税法上の所得にはなりません。これは無償・有償共通です。

行使時(株を購入・入手する時)については、株式の時価と行使価額との差額の経済的利益を享受することとなるため、その利益について給与所得課税され、付与した企業側では源泉所得税が発生します。

株式譲渡時は行使時の時価と譲渡時の価額との差額が株式譲渡課税されることとなります。

 

税制非適格・有償付与の場合

ストックオプションを適正な時価により有償で付与した場合です。まず、付与時は、前述の通り課税関係はありません。

行使時(株を購入・入手する時)については、無償の場合と異なり、株価と権利行使価額の差額の課税関係は発生せず、株式の譲渡時に株式譲渡所得課税が生じます。(所得税法36条2項、所得税法施行令109条1項1号)

株式の譲渡時には、ストックオプションの購入価額に行使価額を加えた額と譲渡時の価額との差額が株式譲渡課税されることとなります。

 

税制非適格・信託型の場合

次に、信託の組成時に、受益者及びみなし受益者の存在しない法人課税信託を通じて役職員に付与した場合の取扱いです。

法人が信託会社に対して、信託した金銭については、法人課税が行われることとなります。

また、当該信託法人がストックオプションを適正な時価で購入した場合は、経済的利益は生じていないことから課税関係は生じません。

受益者を指定して当該受益者(役職員)に付与された時点についても課税関係は生じませんが、信託会社が負担したストックオプションの価額が受益者に引き継がれることとなります。

行使時については、その引き継いだストックオプションの価額に行使価額を加えた額と株式の時価との差額の経済的利益を享受することとなるため、その利益について給与所得課税され、付与した企業側では源泉所得税が発生します。

株式譲渡時は行使時の時価と譲渡時の価額との差額が株式譲渡課税されることとなります。

なお、信託型のストックオプションはその付与する者が信託であるため、給与所得課税ではないという見解がありましたが、今回の国税庁の公表により給与所得として明確にされています。

 

税制適格ストックオプションの税務上の取扱い

税制適格ストックオプションはその行使時に給与課税されるストックオプションについて、一定の要件を満たすことにより、行使時の給与所得課税として取り扱わず、株式譲渡時まで課税を繰り延べることができる制度です。

税制適格ストックオプションの要件の概要は以下の通りです。

区分 要件
付与対象者 役職員等
所有株式数 発行済み株式の1/3を超えない
権利行使期間 付与決議日の2年後から10年後(一定の未上場会社は15年後)まで
権利行使価額 権利行使価額が契約締結時の株価以上
権利行使限度額 権利行使価額の年間の合計額が1,200万円を超えない
譲渡制限 他人への譲渡禁止
発行形態 無償であること
株式の交付 会社法に反しないこと
保管・管理など契約 取得した株式について、証券会社等に保管の委託等がされること
その他の事務手続き 法定調書、権利者の書面等の提出

 

なお、アンダーラインで示した一定の未上場会社について15年とされている点が、令和5年の税制改正で新たに加えられた変更点です。


ストックオプションは役員や従業員にインセンティブを与える重要な経営施策の一つです。

また、ストックオプションには時価、権利行使価額など難しい表現が多く、取り扱いにくい印象があるのも確かです。

ストックオプションを導入する際には、専門家に相談することをお勧めします。