「2年前の売上が1,000万円を超えると消費税を払う必要がある」と耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。 

しかし、実際の現場では「税抜と税込どちらで計算するのか?」「車両を売った売上は含まれるのか?」「売掛金などの債権の貸倒れがあったときはどうなるのか?」といった疑問や判定ミスが発生することも少なくありません。さらに、インボイス制度の導入や2割特例・3割特例 (インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置) の創設によって、判定ルールはかなり複雑化しています。 

本記事では、個人事業主や法人の経理・財務担当者、フリーランスの方に向けて、
「基準期間の課税売上高」について間違えやすい注意点や特例ルールを2回に分けてわかりやすく解説します。 

※本投稿は、できるだけわかりやすいよう、簡易的に記載しています。詳細は国税庁Webサイトをご確認いただくか、顧問税理士にお尋ねください。

「基準期間の課税売上高」の全体像

まずは、本記事全体で押さえておきたい最重要ポイントを整理します。 

・基準期間は「2年前」が基本:個人事業主は「前々年(1月〜12月)」、法人は原則「前々事業年度」の課税売上高で判定します。 

・「税込」か「税抜」かの計算方法は2年前の身分で決まる:2年前に免税事業者だったなら「税込」、課税事業者だったなら「税抜」で計算します。 

・固定資産の売却も含まれる:社用車や事業用建物を売った分も課税売上高に加算されます。 

・貸倒れは控除できない:今期売掛金が回収不能(貸倒れ)になったとしても、2年後の判断基準となる課税売上高からは控除できません。 

・個人は年換算なし、法人は端数切り上げで年換算あり:年度途中で開業した場合、個人の事業主の期間は12か月に引き延ばしませんが、法人の短期事業年度は1か月未満の端数日数を1か月に切り上げた上で12か月分(1年)に年換算します。  

・1,000万円以下でも課税になる例外:特定期間(前年上半期の給与等)、資本金1,000万円以上、インボイスの登録、高額資産の取得などに注意が必要です。 

 

 ※本記事(第1回)では、まず基本となる「期間の特定」「税込・税抜の判定」「中途開設時の年換算」を解説します。固定資産や貸倒れの取り扱い、各種特例については次回(第2回)で解説します。 

 

そもそも「基準期間」とは?なぜ2年前の売上で決まるのか

消費税における「基準期間」とは、その年に消費税の申告・納税が必要かどうか(納税義務があるかどうか)を判断するために参照する過去の期間のことです(消費税法第2条第1項第14号)。 

2年前の売上高で決める理由は、事業者が事業年度の開始時点で「今年は消費税を納める必要があるのか」をあらかじめ把握し、請求書での税額転嫁や納税資金の準備を計画的に行えるようにするためです。 

個人と法人での期間の違い 

個人事業主と法人では、基準期間の捉え方が異なります。 

区分  基準期間  判定のルール・特徴 
個人事業者  その年の「前々年」(1月1日〜12月31日)  年の途中で開業した場合でも、前々年の暦年全体が基準期間となります。 
法人(原則)  その事業年度の「前々事業年度」  3月決算法人の場合、2026年3月期の基準期間は2024年3月期となります。 
法人(決算期変更等)  前々事業年度が1年未満の変則期間  当該事業年度開始日の2年前の前日から1年以内に開始した各事業年度を合わせた期間。 

(※基準期間が1年未満になることもあれば、複数の期間を含むことで1年以上になることもあります。) 

  

個人事業主が会社を設立(法人成り)した場合、個人の人格と法人の人格は税務上完全に分かれるため、個人事業主時の売上高が1,000万円を超えていても、設立された会社の基準期間の課税売上高として合算されることは原則ありません。 

「税込」か「税抜」かの判定の分かれ道

基準期間の課税売上高を計算する際、最もミスが起きやすいのが「税込で判定するのか、税抜で判定するのか」という点です。 

判定の基準はシンプルで、「判定したい今年」ではなく、「2年前(基準期間)の自分がどういう状態だったか」で決まります。 

 

判定パターンの比較 

・2年前に「課税事業者」だった場合:売上には消費税が含まれているため、税抜金額の合計で1,000万円を判定します。 

・2年前に「免税事業者」だった場合:売上に消費税は含まれていない(預かっていない)とみなされるため、税込金額の合計で1,000万円を判定します。 

 

インボイス制度で年の途中に登録した場合は?(期間按分計算) 

インボイス制度が始まった2023年10月1日など、「年の途中で免税事業者からインボイス発行事業者(課税事業者)になった年」が基準期間になる場合は、期間を分けて合算計算を行います。 

インボイス登録後の売上だけで判定したり、1年分すべてを税抜処理したりしないよう注意してください。 

【計算例】(個人事業主:令和5年10月1日にインボイス登録した場合) 

・1月1日〜9月30日(免税期間):売上 550万円 

・10月1日〜12月31日(課税期間):売上 440万円(税込・10%対象) 

この場合、判定に用いる基準期間の課税売上高は以下のようになります。 

5,500,000円+(4,400,000円×100110)=5,500,000円+4,000,000円=9,500,000円5,500,000円+4,400,000円×100110=5,500,000円+4,000,000円=9,500,000円

 

 合計で950万円となるため、1,000万円以下と判定されます。 

 

中途開業時の「年換算」について 

年度の途中で開業した場合の計算方法は、個人と法人で取り扱いが異なります。 

個人事業主:年換算は「しない」(実績額で判定) 

個人が年の途中で開業した場合、前々年の営業期間がたとえ数か月であっても、売上高を12か月に引き延ばす「年換算」は行いません(消費税法基本通達1-4-9)。 

・例:前々年の11月1日に開業し、年末までの2か月間で800万円の売上を上げた場合 

⇒ 年換算すると4,800万円になりますが、判定は実績値の「800万円」のまま行います。したがって、1,000万円以下となり免税事業者となります。 

 

法人:1年未満の事業年度は、端数切り上げで年換算する 

法人の前々事業年度が1年未満である場合は、1年(12か月)に換算します (消費税法第9条第2項第2号)。    

年換算課税売上高=基準期間中の税抜課税売上高×12基準期間の月数年換算課税売上高=基準期間中の税抜課税売上高×12基準期間の月数

 

ここで最大のポイントとなるのが、「1か月に満たない端数日数は、切り上げて1か月とする」というルールです(消費税法第9条第3項)。 

・例:第1期が「5月10日設立〜翌年3月31日決算」、売上高990万円の法人 

暦の日数は「10か月と22日」ですが、端数の22日は切り上げられ、計算上の月数は「11か月」になります。    

年換算売上高=9,900,000円×1211=10,800,000円年換算売上高=9,900,000円×1211=10,800,000円

 

実績売上は990万円ですが、年換算すると1,080万円となり1,000万円を超えるため、設立3期目は強制的に課税事業者となります。日割り按分計算は認められません。 

 

次回は、「課税売上高に含まれるもの・含まれないもの」「金額基準で変わる1,000万円と5,000万円の壁」「売上1,000万円以下でも免税にならないケース」「2割特例や3割特例の実務」について解説します。 

消費税の判定は、1日の違いや1円の端数処理で納付税額が大きく変わることもあります。判断に迷う取引や特殊な事情がある場合は、お早めに所轄税務署や顧問税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。