こんにちは。税理士法人武内総合会計です。
税務に関する話題でときおり耳にする「マルサ」。正式には「査察調査」と呼ばれ、これは通常の税務調査とは異なり、脱税の疑いが極めて高い場合に実施される特別な調査です。
この記事では、「マルサ」の仕組みや、令和5年度の取組状況、最近の傾向などをわかりやすく解説します。
査察(マルサ)制度は、悪質な脱税者に対して刑事責任を追及し、その一罰百戒の効果を通じて、適正・公平な課税の実現と申告納税制度の維持に資することを目的としています。 国税査察官は、悪質な脱税者に対して数か月から1年以上をかけて徹底的にその周辺調査を行い、十分な脱税の確証を得た上で調査に着手します。
また、たとえ税務署の一般調査で着手されたとしても脱税額が多額でかつ悪質な行為が発見された場合には、査察部門に引き継がれ査察調査として処理されることもあります。
【査察調査とは】
査察調査とは、納税者の意思にかかわらず実施される「強制調査」です。
強制調査を行うためには、裁判所で令状が必要となりますので、国税当局の意思だけで査察調査を実施することはできません。
裁判所が強制調査を実施することを許可した場合、査察は納税者の同意無しに事務所等へ入り、有無を言わさず証拠となる書類等を強制的に押収することが認められています。
【令和5年度の取組状況】
○ 検察庁に告発した件数は101件、脱税総額(告発分)は89億円で、1件当たりの脱税額は8,800万円でした。告発率は66.9%です。
【令和5年度中の主な判決】
○ 一審判決83件全てに有罪判決が言い渡され、9人に対して実刑判決が言い渡されました。
実刑判決のうち、査察事件単独で最も重いものは懲役4年、他の犯罪と併合されたものは懲役6年でした。
【最近の取組状況】
○消費税事案、無申告事案、国際事案、時流に即した事案などの社会的波及効果が高いと見込まれる事案へ積極的に取り組んでいます。
1.消費税事案
消費税に対する国民の関心が極めて高いことを踏まえ、消費税事案について、令和5年度は27件を告発しました。また、消費税の仕入税額控除制度や輸出免税制度を悪用した不正受還付事案は、いわば国庫金の詐取ともいえる悪質性の高い事案であり、令和5年度は16件を告発しました。
2.無申告事案
納税者の自発的な申告・納税を前提とする申告納税制度の根幹を揺るがす無申告事案について、令和5年度は16件を告発しました。 そのうち、不正行為はないものの、故意に申告書を提出せずに税を免れる単純無申告のほ脱事案を11件処理しています。
※ほ脱…納税者が不正な手段によって納税義務を免れたり税額の還付を受けたりすること。
3.国際事案
経済社会のグローバル化の進展に伴い、国境を越える取引が恒常的に行われ、資産の保有、運用の形態も複雑・多様化していることから、国際取引を利用した脱税へも対応しています。外国法人を利用して不正を行っていた事案や海外に不正資金を隠していた事案などの国際事案に積極的に取り組み、令和5年度は23件を告発しました。 また、国際事案では租税条約等に基づく外国税務当局等との情報交換制度を活用しています。
4.社会的波及効果の高い事案
時流に即した事案などの社会的波及効果が高いと見込まれる事案に積極的に取り組んでいます。
【事案の内容】
○ 脱税請負人が、脱税のために虚偽の経費を計上するスキームを節税とうたって、広く納税者を勧誘し、納税者らが当該スキームを利用して法人税及び消費税を免れていた。
○ インターネット上の物品の転売やそのノウハウの指南を業とする者が、架空の経費の計上や売上を除外することで、自身の所得税及び主宰法人の法人税を免れていた。
○ 半導体製造工場の建設が盛んな地域における工場内設備工事事業者が、架空の経費を計上することで、法人税及び消費税を免れていた。
○ コロナ禍におけるペット需要の高まりを受けたブリーダー業を営む者が、架空の経費を計上することで、所得税を免れていた。
査察調査を受ける納税者は限られていますが、一旦、査察調査に入られると金銭的なダメージを受けるとともに、供述調書の作成等のために拘束される期間も長期間に及びます。また、マスコミ等で報道され社会的な制裁も受けます。決して、査察調査を受けることがないよう日頃から適正申告に努めましょう
引用元:https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2024/sasatsu/r05_sasatsu.pdf